「夏姫。」
2005年 09月 01日
「この雨が、全てをやさしく包んでくれたらいいのに」
夏が終わる日。
彼女はそう言って、薄灰色の空を見上げた。
雨はやわらかく降りそそぎ、僕たちはただただ雨が止むのを待つしかなかった。
夏が始まる日。
彼女は、まぶしい太陽の下で、太陽よりもまぶしい笑顔をその小さな顔に浮かべていた。
夏が大好きな僕でさえ、その夏の太陽みたいな笑顔はとてもまぶしくて、その笑顔を見るたびに僕はドキドキしてうつむいた。
この夏で一番暑い日。
浜辺に無数の花火が上がった日。
その内のどれが僕の気持ちで、どれが彼女の気持ちだったのかは分からないけれど。
僕らの気持ちは空に打ち上げられ、大きな華となって無数の人の心に残った。
そして、たくさんの人の気持ちを心に残したまま、世界には再び静寂がやってきた。
この夏で一番明るい夜。
彼女と二人で月を見た。
水平線に浮かぶ月は、本当にまんまるで。
月の光に照らされた彼女は、月下美人の花のように果敢なくて、僕が見つめるとまるで金魚のように目を閉じた。
すべてがやわらかい夜の海で、僕だけが熱を帯びて漂っていた。
「夏って、なんで終わっちゃうんだろう」
この夏で一番熱い日。
彼女はそう言って、茜色の空を見上げた。
夕日は海に沈み始めていて、全てがオレンジ色に見える世界では、彼女の気持ちすらオレンジ色に染まっていた。
ただ、僕の気持ちだけが、いつまでも夏の青い空のままだった。
雨はまだ降り続いていて、僕たちはまだ動けないままだった。
雨が止んだら、秋がやってくる。
秋やってくると同時に、彼女は去る。
ただ、それだけのこと。
ただ、それだけのことなのに、どうしてこんなに悲しいんだろう。
■□■□■□■□■【季節の終わりTB 夏編】■□■□■□■□■
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締め切りは秋がやってくるまで。
TB記事 http://earll73.exblog.jp/2211266
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【新企画】 季節の終わりTB ~夏編~にTB。
冒頭の台詞が全て。
by kemicho
| 2005-09-01 02:08
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