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全部嘘です(嘘)


by kemicho
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「家族の祝日」

ジングルベルが聴こえない ~サンタ予備校卒業試験~に参加です。





 
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ここ、サンタクロース予備校では、今日いよいよ卒業試験の日を迎える。
出発前の指令所には、今回卒業試験を受けることを許された精鋭が集い、各々の指令を受け取っていた。

「・・・次、ケン」

俺の番だ。
ボスの前に進み、指令書を受け取る。
「Written instructions」と書かれた封筒の中には、ターゲットに関するあらゆる資料が入っていた。
氏名、年齢、性別、生い立ち、家族構成から各種の嗜好、あげくにはトイレの回数まで。
彼女に関するすべてが記してあった。

そう。
「彼女」だ。
名前はナンシー。
アメリカに住む、5歳の女性。
それが、俺に与えられた卒業試験のターゲットだった。


「サンタクロース予備校」というのは、そのメルヘンな名前とは裏腹に、実態は国際的な諜報機関だ。
構成員が「サンタクロース」として、クリスマスを最高の夜にするための組織。
そのため、ターゲットに関するありとあらゆる情報は調べ尽くされる。
その情報から、ターゲットが最も望むプレゼントが選定され、クリスマスの夜にそっと贈られるのだ。

サンタクロースが、今でも子供たちの夢であり続けるのは、今まで1つの失敗もないからだ、と言われている。
実際に、ミスがあったという話は誰も知らないし、世間一般にこの組織のことが知れ渡ることもないから、それは真実なのだ、
と、誰もが信じている。


でも、少なくとも1度はミスがあったことを俺は知っている。


5年前の卒業試験の夜。
そのとき、俺は「サンタクロース」を見てしまった。
「サンタクロース」からすれば、他人に姿を見られるのは明らかなミスだ。

しかし、俺がこの予備校に入ったのは、それがきっかけだった。
いや、入らされた、という方が正しい。
秘密をばらされたくないから、いっそのこと仲間に取り込む。
よくある手だった。
だが、俺はその話にのった。
子供に夢を与える、というのも悪くないと思ったし、そもそも当時の俺は完全に生きる目標を見失っていた。
「サンタになる」という目標は、そんな俺に生きる意味を与えてくれたのだ。


予備校に入るには、秘密保持のため、それまでのすべてのつながりを捨てる必要があった。
家族、友人、恋人・・・。
予備校としては、そのあたりの処理も手馴れたもので、俺は簡単に行方不明になることができた。
俺の存在なんてあっけないものだな、と思ったのを覚えている。

予備校に入ると、過酷な訓練が待っていた。
何せ、一晩で何百人という子供にプレゼントを配らなければならないのだ。
部屋への潜入から撤収まで、1分以内で片をつける必要がある。
そのための知識と技術を完璧に叩き込まれた。
持っているスキルをすべて使えば、銀行の地下金庫にすら潜入できるはずだ。
それをしないのは、技術が悪用されないように、常に予備校のスタッフの監視下にあるからであり、それ以上に、みんなサンタクロースという役目が大好きなのだ。
子供の夢を壊すようなことはできるはずがない。



資料を受け取った俺は、さっそくターゲットの詳細を確認する。
「5歳。女性。アメリカ在住。」
「わがままだが母親に対しては遠慮がちな面を見せる」
「母子家庭。父親は彼女が生まれる前に行方不明。」
「得意科目は物理。」
「好物はリンゴ。嫌いなものはピーマン。」etc,etc…
「以上の調査により、今年のプレゼントは『特大のテディベア』を用意しました。」
・・・ご丁寧に、プレゼントまで用意してあるらしい。


早速プレゼントを抱え、ターゲットのところへ向かう。
今夜はクリスマス・イヴだ。馬鹿でかいプレゼントを持って歩いていても怪しまれることはない
彼女の住む部屋の窓の前に着くと、早速作業を開始する。
とにかく、1分で部屋への潜入、プレゼントの設置、そして撤収をこなさなければならない。
俺は早速、サーモグラフィを使ってターゲットを確認した。
・・・よし。
どうやらおとなしくベッドで寝ているようだ。
念のため、窓の隙間から速攻性の睡眠ガスを部屋に注入する。
これで、多少の物音では目を覚ますことはない。
中毒性もないから、朝の目覚めはいつもと変わらないはずだ。

窓の鍵も難なく開錠し、素早く部屋へ進入する。
ベッドに近づき、ターゲットの寝顔を・・・

・・・ん?


!!


まずい!
これは・・・・・・犬か!
どうやらサーモグラフィでの確認で、犬と人間とを間違えたらしい。
本来ターゲットが寝ているはずのベッドでは、彼女の飼い犬が横になっていた。

あまりにイレギュラーな出来事に、俺は一瞬の思考停止に陥った。
そのときだった。


部屋にターゲットが入ってきた。


「・・・?誰・・・?」


くそっ、こうなったら・・。
「しっ!静かに!」
とにかく今は騒がれるとまずい。
そして何か言い訳を・・・


「おじさん・・・あ!分かった!サンタさんね!そうでしょ?」


ばかな・・・バレた?
任務失敗・・・卒業取消・・・そんな言葉が頭をよぎる。
しかし、彼女はそんな俺の気持ちなど知らずにしゃべり続ける。


「私ねぇ、欲しいものがあるの!サンタさん、プレゼントしてくれる?」

「あ、ああ。」
思わず答えてしまう俺。
どうすればいい?どうすれば・・・
さっきから頭が全然働かない俺は、そのことでますます焦ってしまっていた。


「私・・・お父さんが欲しいの。お父さんいなくて、お母さんいつもさびしそう。
 私もさびしいんだけど、お母さんに言うとお母さんがもっとさびしそうな顔をするから言えないの。
 でも、サンタさんならプレゼントしてくれるんでしょ?」


父親?・・・そうか、確かこの家は母子家庭だった。
そんなもの出せるわけがない。
しかし、無邪気で期待に満ちた眼差しは、明らかに俺に向けられている。
どうすれば・・・どうする・・・何か・・・何か方法は・・・
必死に考えれば考えるほど、頭は空っぽになっていくばかりだった。

そのときだった。
「動かないで!娘から離れて!!」

「!」
「ママ!」


銃を構える母親が、いつのまにかドアのところに立っていた。
どうやら俺を泥棒か何かと勘違いしているらしい。
・・・・・・これは、完璧に落第だな。
頭の隅っこで、妙に冷静に言う声が聞こえる。
もう、卒業試験なんかどうにでもなれ、だ。
そう思い、なんとか母親に銃を下ろしてもらおうと、あらためて母親の方を見た。


と、瞬間、俺は思わず彼女の名前を口にしてしまった。


「・・・・・・リ・・・ンダ?」


「・・・だ、誰なの?!なんで私の名前を・・・」


「リンダ!俺だ!ケンだ!」



俺はそう言って、黒い覆面を取る。
本来、サンタの任務中には考えられない行動であるが、ここまで失敗してしまった以上もう関係ないだろう。
それよりも、自分が誰だかを相手に知ってもらう以外に、この状況を脱出する方法はなかった。


「!!・・・・・・ケン・・・ケンなの?!本当に・・・?!」


彼女、リンダは、俺が5年前、予備校に入るときに捨てた女だ。
あのころは、彼女との関係もうまくいっておらず、そのこともあってすべてを捨ててしまいたかったのだ。
まさか、こんなところで再会するとは。
完全に予想外だ。
しかし、それよりもさらに予想外だったことを、彼女は言い出した。

「ケン・・・・・・実は・・・この子、あなたの子供なの」

・・・・・・!
どうやら、指令書に書いてあった「生まれる前に行方不明になった父親」というのは俺のことのようだ。

彼女が言うには、俺がいなくなってすぐにナンシーが生まれたらしい。
父親が行方不明のままだったが、すぐに帰ってくると思って生んだ、と。
しかし、いつまで経っても帰ってこない。
もう、父親は死んだものとして、一生一人で育てようと思っていたらしい。
そんなときに、突然現れたサンタクロース。いや、父親であり夫であるべき人。


俺の選択は・・・決まっている。
俺はサンタクロース。
ならば、子供の望むものを与えてやるのが仕事だ。


本当に、偶然というのは恐ろしいものである。
いや、これはクリスマスの夜の出来事だ。

奇跡が起きた、というのは、少し言い過ぎだろうか?

結果的に、ナンシーの最も欲しいプレゼントは見事に与えられたことになるし、アメリカのクリスマスは「家族の祝日」だ。
家族で過ごす、初めてのクリスマスの夜。
最高のプレゼントじゃないか。

俺はあらためて、クリスマスの奇跡に、感謝した。







「ボス、いいんですか?」
「・・・ん?」
「ケンの卒業試験。いくら卒業したら家族のところへ帰れるって言っても・・・」
「いいじゃないか。最高のクリスマスプレゼントだとは思わんかね?」
「そうかも知れないですけど・・・」
「ワシだって、たまには現役時代を思い出して、プレゼントの一つや二つ、誰かに贈ってみたくなるもんじゃよ」
「まったく。それならそれで、最初からケンに言ってあげればいいのに」
「それじゃあつまらんじゃないか。やはりプレゼントにはサプライズが必要じゃよ」
「まったく意地の悪い・・・」
「何か言ったかね?」
「いえいえ。何も。」

「・・・まあ、とにかくうまくいってよかったのぉ」
「・・・ええ。本当に。」
「・・・こういうときこそ、言うべきじゃろうな」
「・・・ええ。そうですね。」



「「メリー・クリスマス」」



(End)
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なんだか全然まとめきれませんでした。汗。
完全な力不足です。
それでも、楽しんでいただける方がいましたら幸いです。


☆★☆★☆★☆★☆【ジングルベルが聴こえない】☆★☆★☆★☆
【企画内容】
今年最後の送りバント企画です。
サンタ予備校の卒業試験として新米サンタになり、
子どもたちにプレゼントを届けるストーリーを創作する企画です。

【参加方法】
この記事へ鍵コメで参加表明してください。
http://earll73.exblog.jp/1436778
どこの国の誰へのプレゼントかを各自にお知らせします。
それをストーリーに組み込んでください。
その他の人物像、ストーリーの背景などは自由です。

【TB期限】
12/24 21:00~ 12/25 21:00の1日
投稿日付変更機能を使って日付は12/25 0:00に合わせて下さい。

【TB記事】
http://earll73.exblog.jp/1469960

企画元 毎日が送りバント (http://earll73.exblog.jp/)
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by kemicho | 2004-12-25 00:00 | 企画参加